アメリカ以外の国でも報道されていたかもしれませんが、先月14日、フロリダで残忍な銃乱射事件が起き、17人の命が奪われました。犯人は精神異常があったと言われているわずか19歳の少年。
平日の昼間に、銃を持って突然高校へと現れ、銃を乱射したのです。
突然の出来事で逃げ切れなかった多くの高校生と学校関係者が一瞬にして命を落とすという悲しい出来事でした。
(古き良き時代のマンハッタンが色濃く残るロウアーイーストサイドは、壁画の宝庫でもあり、歩いているとあちこちでこのような見事な壁のアートに出会います。)
アメリカは銃を簡単に手に入れられる国というイメージがありますが、日常生活では、マンハッタンで警官たちが腰に物々しい銃を下げて歩いているところを見るぐらいで、一般人が銃を持っている姿を見たことはありませんし、銃を持っているという人も聞いたことがありません。そんなことから、アメリカに住んでいても、アメリカが銃社会であることを忘れがちですが、今回の事件に限らず、ここ数年の間だけでも、何度も残忍な銃乱射事件は起こっています。
いつも不思議に思うのは、その度にメディアは大きく報道し、銃規制を求める人たちの声も大きくなりますが、結局何も対策がなされることはなく、また悲しい事件が起こってしまうという現実です。
しかし、今回、被害となった高校の生徒たちはいち早く立ち上がり、ホワイトハウスでトランプ大統領とも面会し、銃の規制を訴えました。
これを受けて、トランプ大統領は、銃購入時の身元確認の強化を徹底することを表明したそうです。そもそも銃を持つことが一般人にも認められていることがこうした事件の引き金になっていますが、政界を支配し、トランプ大統領にも選挙の際に33億円も献金したと言われるNRA(全米ライフル協会)の動きも気になって、銃の全面禁止ということにはなかなかなりません。
ただ、今回の事件が今までの銃関連の事件と大きく異なるのは、この事件が引き金になって、企業のNRA離れが進んだことです。
NRAの会員は多くの企業から割引等の特典を受けてきたそうですが、今回の件で、全米大手企業が続々とNRAとの提携解消を表明しました。
ツイッターでは、#NeverAgainというハッシュタグで多くの人たちが、今回のような悲惨な事件が起こらないようにと訴えています。
こうした動きを見ていて強く感じるのは、誤ったことに対して断固として「NO」という市民たちの動きを、企業や政治家が無視できなくなったということです。今までも銃乱射事件が起きる度に、銃規制を訴える市民の声は大きくなっていましたが、何も変わりませんでした。しかし、今回は違います。
(こんなにインパクトのある壁画も。真ん中の女の子の口の中にはうさぎちゃんが。可愛い壁画です。)
なぜ、今回の件は違うのでしょうか。そして、大企業も重い腰を上げて動き出したのでしょうか。それは、個人的には、トランプ大統領の就任によって社会の風潮が大きく変わったからではないかと思います。
トランプ氏は、就任直後から、常識からは考えられないような政策を打ち出したり、一国の大統領とは思えないような発言を繰り返しています。これに対して、多くの人たちが立ち上がり、全米規模で何度も大きなデモを展開しました。おかしなことに対して恐れずに「NO」という動きが広まり始めたのです。そうしたら社会的な流れの中で、映画界の巨匠、ハリウッドを仕切ってきたハーヴェイ・ワインスタイン氏は、セクハラ疑惑で失脚に追い込まれ、ついには自身の会社は破産という状態になり、長年のハーヴェイ帝国は終焉を迎えることになりました。
この動きでのキーワードは、#MeToo。ニューヨークタイムズ紙の記事に端を発するハーヴェイ氏のセクハラ疑惑では、次々に名だたる女優さんたちが#MeTooと被害を表明し、その後、大物俳優やテレビのキャスターといった人たちからのセクハラを告発する動きへと発展し、多くの有名男性たちが、次々とテレビから姿を消すことになりました。
セクハラ自体はずっと前に起こったものでしたが、去年の秋になってようやく明るみにでたのです。(ハーヴェイ・ワインスタイン事件については、こちらの過去記事をご覧下さい。https://whitecatinny.com/2017/11/29/harvey-weinsteinニュースの余波/)
なぜそれが去年だったのか当時は分かりませんでしたが、間違ったことに対して恐れずに「NO」という動きは、トランプ氏が大統領に就任してからさらに顕著になっていて、そうした大きな社会の流れの中での出来事だったのだと思います。
日本では、アメリカ人は何でもはっきりと物を言う国民と思われています。しかし、実際のところは、会社でのアメリカ人の行動を見ていても感じるのですが、アメリカ人も社会生活の中では、自分の立ち位置を考えて政治的に行動していて、必ずしもはっきりと物を言うとは限らないということです。
そのため、ハーヴェイ事件が象徴するように、仕事を失うことを恐れた女優さんたちは、セクハラ被害にあっていても、今まで一切口にしてきませんでした。
駆け出しの女優さんではなく、ある程度名前が知られている女優さんでも、やはり大きな権力には逆らえなかったのです。
トランプ氏のニュースは連日メディアで報道されていますが、社会の反応は落ち着きつつあります。ただ、その一方で、一人一人が、社会的に見て正しいこととそうでないことを真剣に考え、正しくないと思われることには、みんなで一致団結して立ち上がる、という動きが、あらゆる分野で起こり始めています。
こうした大きな流れの中で、NRAも今まで通り、社会を牛耳ることはできないでしょう。
皆が暮らしやすい社会へと向かっていくことを静かに見守っていきたいと思います。