今年の8月をもってNY生活が丸15年となりました。
これだけの期間NYで暮らしていると、自然と周りには、NY生活が私とほぼ同じ、もしくは、私よりもはるかに長く住んでいる日本人も多くなります。
今日は、そんな人たちの間でたまに話題にのぼる「アメリカ国籍をとるorとらない」というテーマについて、考えてみたいと思います。
まず最初に大前提ですが、日本は世界的に見ても数少ない二重国籍を認めていない国です。つまり、アメリカ国籍を取得した場合、「日本の法律上は」日本国籍を保持することは認められていません。その一方で、アメリカは二重国籍を認めているため、二重国籍はアメリカサイドでは何も問題となりません。
米国で暮らす日本人で米国籍を取ろうとする人たちの多くは、日本の国籍を維持しようとしています。ここまで読んで、あれっ?思った方も多いかもしれません。アメリカ国籍を取得したことは日本側に伝達されることはないため、たとえ日本が二重国籍を認めていなくても、実際のところ、二重国籍を維持することができてしまうのが現状なのです。
そのため、私の周りでアメリカ国籍を取得した日本人のうちおよそ半分の人たちは、日本政府への国籍離脱の届け出を行わず、日本国籍を持ったままの状態でアメリカ国籍を取得しています。
ここまでの話をまとめると、アメリカ国籍を取得した日本人は、
・日本国籍を正式に放棄してアメリカ国籍のみとなった人
・日本国籍を放棄するという手続きを踏まずにアメリカ国籍を取得し、日米の国籍を維持している人
の2つのタイプに分けられます。
法的に言うと後者のタイプは日本の法律上は違法(米国法上は合法)のため、米国籍を取得したことが何らかの理由で日本のお役所に見つかった場合には、日本国籍をはく奪されてしまうリスクをはらんでいることになります。
そのため、友人や知人から米国籍を取得している、という話を聞いても、相手がそれ以上のことを話してこない限り、私からは深入りは決してしないようにしています。
もし、日本の国籍を放棄して米国籍のみとなったらどうなるのでしょうか。日本で生まれ、両親が日本人で自身の見た目も日本人だったとしても、完全にアメリカ人と同様の扱いとなります。つまり、旅行するときはアメリカのパスポートを使うことになりますし、日本での長期滞在の際にはビザが必要ですし、年金など日本人としての社会保障も受けられません。今は米国で暮らしていても、将来日本へ帰国したり、日本に長期で住んだりする可能性がある場合、やっかいです。
そんなこともあり、米国籍を取得する日本人の中には、日本国籍を手放すことを躊躇する人が多いのです。
では、そこまでして米国籍を取得するメリットはどこにあるのでしょうか。
米国で生まれた人は両親の国籍に関係なく、米国籍を保有します(米国で日本人の親のもとに生まれ、日本へも出生届を出して日本国籍も保有することができます。ただ、その場合、日本の法律上は、成人した際に日本のお役所にどちらの国籍をとるかを伝える必要があります)。
米国生まれでない人が米国籍を取得する場合には、グリーンカードからしか道はありません。グリーンカードはいわゆる永住権。10年ごとの更新となりますが、米国に住んで普通に生活している限り(犯罪を犯すなどおかしなことをしない限り)において、更新は問題なく行うことができます。グリーンカード保持者にはなくて米国籍保持者にはあるものといえば、選挙権と陪審員の義務。それ以外で、生活の上で違いはありません。
以前、日本で生まれ育った後に研究者として渡米した男性が、米国での研究費の取得がしやすいからとの理由で米国籍を取得したという話を聞いたことがありますが、このように、よほど何か個人的な事情がない限り、米国籍は特に必要ではない、というのが現状です。
これだけ米国で長く暮らし、税金も納めていても、選挙権がないというのは少し残念ではありますが、そのために米国籍を取得しようとまでは決して思いません。30歳手前まで日本で暮らしてきた私にとって、祖国は永遠に日本なのです。
私の周りで日本国籍離脱手続きをとって米国籍だけになった方々は、結婚相手がアメリカ人で今後日本で暮らすことを考えていない、という人だったり、日本よりアメリカのほうが合っていて今後もアメリカに住み続けるという人だったりします。ただ、その場合でも、日本国籍を維持して、グリーンカードでアメリカに住み続けるということは可能なので、それを超えて、あえて日本国籍から離脱までして米国籍になる理由はどこにあるのかは興味深いです。
なお、米国は全世界課税というシステムを採用しているため、米国籍の人とグリーンカード保持者は、米国以外の国での収入もすべて米国に納税することが義務となっています。そのため、米国を完全に離れるとなった時点で、(こっそり二重国籍を維持している人は)米国籍の離脱、グリーンカード保持者はグリーンカードの放棄の手続きを行うことが賢明と言われています。
そもそも二重国籍を認めていない国は世界的に見ても珍しいようで、これだけ国際化した世界の中で、日本がどうしてそうした立場を堅持しているのかは分からないのですが、海外で暮らす日本人も増えている今、改めて日本は国籍制度の検討の時期に来ているのかもしれません。