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日本を代表する世界のジャズピアニスト穐吉さん、93歳でステージに!

昨夜の興奮を少しでも記憶が鮮明なうちに、と思い、このブログの記事を書いています。

海外を舞台に活躍する日本人ジャズピアニストの先駆け、そしてアメリカのジャズ界の歴史にもその名前を刻んできた穐吉敏子さんが、2夜限りのコンサートをリンカーンセンターで行いました。そのコンサートが色々な点でとにかく素晴らしく、今日は、93歳で元気にステージに立たれて聴衆を魅了した穐吉さんの魅力を昨夜の感動と共にお伝えできたらと思っています。

ジャズの世界に詳しくなくても、穐吉敏子さんのお名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
日本人で初めてボストンの有名音大に入学したのは、なんと1956年。それ以来、アメリカを拠点として活躍されています。
(2018年に出演された徹子の部屋の様子はこちらから)

テナーサックスとフルート奏者である旦那さん、ルー・タバキンさんと共に築いたビッグバンドでは、14度もグラミー賞にノミネートという快挙。2003年にビッグバンドを解散してからは、定期的なコンサートの機会はないため、”The Music of Toshiko Akiyoshi"と題する穐吉さんをフィーチャーした今回のコンサートはかなり貴重な機会でした。そして、昨夜のステージは、穐吉さんのジャズミュージックへの愛が溢れるだけでなく、観客に少しでもこの瞬間を楽しんでもらいたいという穐吉さんの気持ち、そして、一緒に演奏した仲間たちの穐吉さんへの敬意に包まれた温かなものでした。こんなに細部にまで行き届いたコンサートは、後にも先にもないのではないかと思うほどの充実ぶりで、その瞬間に立ち会えたことに感謝しかありません。

8時開演の1時間前には、同じ会場の別の部屋でレクチャーが行われました。穐吉さんの研究家の方でしょうか。完全バイリンガルの日本人男性が、彼女の主要作品も実際に流しながら、生い立ちを紹介してくれました。1929年満州生まれ。ピアノは幼少時に満州の地で始めたそうです。駐在員だったお父さんはその後満州で貿易会社を興しますが、終戦により家族で両親の出身地であった大分へと引き揚げます。敗戦によって財産を失ってしまったために日本へ戻ってからピアノを買ってもらうことができず、ピアノを弾ける環境をと、別府の駐留軍キャンプのダンスホールでジャズピアニストとして演奏を開始したそうです。その時わずか15、16歳。その後、東京でのジャズピアニストとしての活動を経て26歳で米国へ。

米国の音大を卒業した後はニューヨークへと拠点を移し、同じく音楽家の方と結婚して、娘を出産。そのお嬢さんが、ミュージシャンのMonday満ちるさんです。しかし、満ちるさんが幼い時に離婚。育児とキャリアのはざま、そしてシングルマザーとして生計を立てていくことで苦労した穐吉さんは、満ちるさんを一時的に日本にいる姉に預けるという苦渋の決断をして、アメリカでジャズピアニストとして独り立ちしていくために努力を重ねたそうです。その後、現在の夫となるルー・タバキンさんとの結婚をきっかけに満ちるさんをアメリカに呼び戻したそうですが、音楽家として生計を立てていくことは容易ではなかったと言います。

しかし、一貫してジャズピアノへの深い愛で走り続け、終戦までを過ごした満州時代、10代の時に経験した敗戦、海外で暮らす日本人としてのアイデンティティーなど、穐吉さんならではの経験をもとに、数々のユニークな曲を世に送り出してきました。

昨夜のコンサートの開演時には、音楽ディレクターでありサックスとフルート奏者も務めたTedさんが穐吉さんとの思い出を語り、穐吉さんと旦那さんのルーさんをステージに迎えました。

穐吉さんとルーさんがステージに現れる直前。前列右から二人目の立って話しているのが昨夜の音楽ディレクターのTedさん。グラミー賞も受賞したことのある大物ミュージシャン。

ステージ真ん中に立つ黒いスーツの女性が穐吉さん。ピアノ横で立って演奏しているサックス奏者が旦那さんのルーさん。82歳と思えない元気な姿でサックスとフルートを交互に弾いて観客を魅了しました。

ピアノを演奏する穐吉さん。会場のリンカーンセンターはほぼ満席でした。日本人もちらほらいましたが、観客の大半はアメリカ人。

 

穐吉さんは93歳とは思えないほどシャキッとした姿でオーケストラの指揮をとり、時には曲の間にピアノへ移動してピアノの伴奏を行った後にまた舞台中央での指揮へと戻ったり。ピアニストの男性に手を取ってもらいながらの移動ですが、その足取り、そして彼女が繰り出す音、情熱的な指揮は、とても93歳とは思えません。それ以上に、穐吉さんが重ねてきたジャズ人生の重みがひしひしと感じられ、観客はステージに釘付けとなりました。

また、指揮者としての時には観客に背をむけていますが、曲が終わるときにくるっと観客の方を向いて終わりのポーズを取るお茶目な場面も。そして、曲の合間合間には、次の曲にまつわるエピソードを流暢な英語で話してくれました。アメリカ人の観客を意識して、話の途中で笑いを取る場面をうまく入れ込んでいたのは、さすがです。米国在住が長い日本人でも、彼女ほどしっかりとした英語でこれだけの数の聴衆を前に英語でスピーチができる人はなかなかいないと思いました。

全く物おじせずにスピーチをする穐吉さん。

 

ユーモアあふれる穐吉さんらしいと思ったコンサートの最後。オーケストラのメンバーが次々とステージを後にして、最後の最後に穐吉さんとルーさんがステージを去るという演出。大きな拍手に包まれました。

 

こんなに素晴らしいコンサートの場にいられた感動はまだまだ続きそうです。次の地元ニューヨークでのコンサートの機会はいつでしょうか。それまでの間、YouTubeで演奏を楽しみたいと思います。


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