2025年も残すところあと1日となりました。
今年はみなさんにとってどのような年だったでしょうか。
今年1月にトランプ大統領の第二期政権が始まり、アメリカはニュースに事欠かない一年だったように感じます。一国のトップが変わると、これほどまでに一般人の生活や仕事にも影響があるのかと思うほどの変わりぶりに、なかなか気持ちがついていかないという人も多かったのではないかと思います。

911の式典に参加した翌日、トランプ大統領がマンハッタンの中心を通ることとなって、厳重警備が敷かれていた朝。チャーリー・カーク氏の暗殺事件から間もなかったこともあり、いつもより緊張感が漂う警備
新政権早々に強化されたのは、ICE (正式名称は、U.S. Immigration and Customs Enforcement)による不法移民の取り締まり。ICEとは、911を受けて2003年に設立された国の安全を守るための政府組織です。私を含めてその名前を始めて知ったのは、今年頭のトランプ政権後という人も多いのではないかと思います。それほどに、日々ICEが次々と不法移民を検挙する様子がニュースで取り上げられた一年でした。
最近では、日本でも移民問題が社会問題として取り扱われるほどに移民の数が増えていますが、アメリカの移民問題の歴史は日本よりはるかに長く、その分、奥深いと思います。
私自身、アメリカから見れば「移民」です。学生ビザで渡米し、就労ビザを経てグリーンカードを取得できるまで、合計すると渡米してから足かけ9年もの間、ビザ第一に生きたといっても過言ではありません。アメリカでは、究極的にはグリーンカードがないと自由な暮らしができないからです(ビザは期限がある上、会社に紐づいていることも多く、自由に転職もできないため)。そのような自身の体験もあり、移民問題については色々想いを巡らすことが多いです。

朝からのんきにうたた寝している愛猫も、日本生まれなので、移民猫?!
今年は日本のメディアでもアメリカの移民問題について大きく取り上げられているのを見かけましたが、残念ながら、表面的な議論に終始しているように感じました。それは、アメリカに住んでいないと見えてこない視点が欠けているからです。今日は、人種のるつぼと言われるニューヨークから見た移民問題について、書いてみたいと思います。
一口に移民と言っても、トランプ政権が検挙の対象としているのは、不法移民です。そもそもアメリカにはなぜこんなにも多くの不法移民がいるのでしょうか。それは、以前から、アメリカに合法的にビザを持って入国することは決して容易ではないため、国境警備が厳しくなかった時代に、ビザを取得せずして、メキシコとの国境を越えて中南米からアメリカへとやって来る人たちが後を絶たなかったからです。バイデン政権時代にかなりの数の人たちがアメリカへ移ってきたことは社会問題になりました。
政情が不安定な中南米の国で生活に困窮し、アメリカに夢を見出して、見ず知らずの土地へと移住するのは相当な勇気と覚悟がいるのではないかと思いますが、マンハッタンの街角に幼い子供たちを抱えて家族で座り込み、「仕事を探しています」という段ボールを掲げている人たちを見る度に、「彼らは本当に自らの意思でアメリカにやってきたのだろうか」と思わざるを得ません。ベネズエラなど、政治が腐敗している国のニュースを見ると、確かにそのような国で暮らすのは夢がないと思いますが、でも、果たして、だからと言って言葉も生活環境も違うアメリカに来ることで、幸せな暮らしは得られるのでしょうか。はるか昔、日本の人たちが甘い言葉にのせられてブラジルやハワイに移住した時と同じようなことが、今、中南米の国々では起こっているのではないかと思わずにはいられず、街角や地下鉄の駅、地下鉄の車内で乳飲み子を抱えた移民たちを見ると心が痛みます。

不法移民たちは、この摩天楼で、どのような気持ちで日々暮らしているのでしょうか
不法移民はいつ母国へ強制送還されるか分からないため、表の世界でキャリアを積むことはできません。アメリカの会社では入社時に合法的に働けるステータスを持っていることを証明する資料(ビザやグリーンカード、アメリカのパスポートやアメリカの出生証明書といったもの)を会社に提出することが義務付けられていますので、不法移民はまともな会社には入社ができないのです。
ただ、アメリカでは各国の人たちのネットワーク(中国、ミャンマーなど)が発達しているので、たとえ不法移民で入国しても、そうしたネットワークを通じて仕事を得ることはできるでしょう。例えば、レストランのお皿洗いのような仕事は、以前から典型的な不法移民の仕事と言われてきました。不法移民を雇う経営者は、彼らが不法移民であることを逆手にとって、法律で最低賃金と決められた金額を下回る給与しか払いません。それでも、不法移民である彼らにとってはありがたい仕事なのです。友人が働くクラブでも、不法移民の人たちが法定の最低賃金の半分以下の金額で働いているそうです。
しかし、忘れていけないのは、こうした不法移民が法定基準よりはるかに低い金額で働いていてくれるおかげで、世の中の物価は今の水準に収まっているということ。物価高が叫ばれている昨今において、もしレストランで働く不法移民たちがいなくなったら、食費はさらに値上がりすることでしょう。

ユーモアセンス抜群のこの方、トランプ氏の住居がある5番街のトランプタワーの目の前でトランプ氏のマネをして観光客を楽しませていました(この写真自体は、バイデン政権の時に撮影したものです。ちょうどトランプ氏が第二期政権に向けて選挙活動をしていた頃)
もともとビジネスマンであるトランプ大統領は、この辺の事情も十分分かっていると思います。では、なぜこれほどまでに不法移民問題撲滅に躍起になっているのでしょうか。
それは、財政と安全への影響だと思います。
まず、財政ですが、不法移民は給与を現金でもらっているため、確定申告を行っていません。つまり、納税をしていないのです。また、社員を雇うと、雇用主はその給与税等を支払う義務がありますが、不法移民は給与台帳には載っていないため、雇用主も脱税をしていることになります。一方で、不法移民たちは、インフラなど日常生活の中で、他の人たちの納税による恩恵を受けています。そのため、不法移民が増えれば増えるほど、財政への悪影響は避けられません。
また、最近では、不法移民のトラック運転手たちが大量に検挙されたことがニュースになっていますが、報道によると、彼らは英語をまともに話せないため、英語の道路標識をしっかり理解せずに運転を行っていて、事故を引き起こしたりと安全面で大きな懸念があるようです。
このように、不法移民たちによる社会への影響は功罪含めてありますが、さらに問題を複雑にしているのは、不法移民の子供たちだと思います。
不法移民としての道を選んだ両親と一緒にアメリカへやってきた子供たちは、自らの意思と関係なく、アメリカ入国時から不法移民としての生活を余儀なくされています。言葉も分からず、親が満足した仕事に就けない中で、生活水準ははるかに低いことでしょう。そのような状況の中で子供たちはどう思っているのだろうか、と街中で見かける子供たちを見る度に思わざるを得ません。
車社会のアメリカのほとんどの都市では、街で不法移民らしき人に遭遇することはなかなかないかもしれませんが、ニューヨークの場合、街角に座り込んでいる家族を見かけることも珍しくありませんし、地下鉄の車内で乳飲み子を背負ってチョコレートを売っている女性、大きな駅構内でチュロスやカットフルーツを売っている家族を見かけることもしばしばです。彼らが皆不法移民ではないかと思いますが(難民ビザのようなビザで入国している場合もあります)、不法移民である可能性はゼロではないと思います。
出生主義のアメリカでは、両親が不法移民だったとしても、アメリカで生まれた子供たちはれっきとした合法なアメリカ人です。トランプ政権は、この考え方自体を変えようと動いていますが、現在の法律上は、不法移民として両親が母国へ強制送還されて子供たちだけがアメリカに残されるということも起こり得るのが現実です。
「不法なものは不法」という姿勢を貫いているトランプ政権。確かに法律違反であることは間違いないのですが、それぞれの人たちの生活や人生を考えると、この問題の解決の道筋はどこにあるのだろうと思ってしまいます。
ただ一つ言えるのは、これ以上問題を大きくしないためには、今後アメリカにやって来る不法移民たちをアメリカに入れないようにすることを徹底することが、より重要になってくると思います。
自国の人たちと移民たちが共存できる社会は、今後、アメリカだけでなく、日本にとっても大きな課題になっていくと思いますが、政権トップによる適切なかじ取りのもと、国にとって最善の選択ができるを模索していく重要性がますます高まっていることを感じます。