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中谷美紀さん、NYで3人の女性を熱演中

日本を代表する女優の中谷美紀さんがニューヨークで公演を行うというニュースがメディアを駆け巡ってから早数ヶ月。ついにその時がやって来ました。

中谷美紀さんといえば、女優としてその名を知らない人はいないほどの実力派。そして、ウィーン交響楽団に所属するドイツ人のヴィオラ奏者の旦那さんとの結婚を機に、オーストリアに住まいを移したことでも知られています。ヨーロッパでの日常を飾らずに自分の言葉で綴った日記帳の彼女のインスタグラムのファンも多いのではないでしょうか。

私はもともとテレビをあまり見ないこともあり、中谷さんが活躍されたドラマは恥ずかながら今まで見たことがありませんでした。そして、普段はヨーロッパと日本を行き来する生活をしている中谷さんの生の演技が見られる機会は、ニューヨークにいる限りはかなり限られてしまうこともあり、今回の公演を心待ちにしていました。

その作品は、第22回芥川龍之介賞も受賞した井上靖さんの「猟銃」。
登場人物は4人。そのうち3人の女性を中谷さんが一人で演じるとあって、NYの日本のメディアでも公演が始まる前から話題を呼んでいました。

今回の公演の舞台は、マンハッタンにあるバリシニコフ・アーツセンター。1970−80年代のクラシックバレー界で活躍された旧ソ連出身のバリシニコフさんが、アーティストたちを支援するためにと2005年にオープンした建物内のホールです。
今回の作品で中谷さん以外の唯一の登場人物である三杉穣介役をバリシニコフさんが演じています。

上演中の写真撮影は禁じられていたので、今回の作品のレビューを掲載したメディアからの写真です。三杉穣介を演じるバリシニコフさん (c) The Dance Enthusiast (Photo Credit: © Pasha Antonov)

三杉穣介に3人の女性から届いた手紙がストーリー。三杉穣介の愛人の娘からの手紙、そして、妻からの手紙、最後に13年に及ぶ愛人からの手紙、次々に読み上げられます。立場も年齢も、そして三杉穣介への気持ちも全く異なる3人の女性。
一人の役を終えるごとに、着ていた洋服を脱ぎ捨てていき、見た目も大きく異なる上に、声の質やそのトーンまでも別人で、中谷さんの七変化に観客の視線は釘付けになりました。

(c) The Dance Enthusiast(Photo Credit: ©Stephanie Berger)

衝撃的な内容のストーリーはもちろん、それを引き立たせる見事な演出。舞台全体に水を張って蓮の葉が浮かぶ中でくるぶしまで水に浸かりながら演じた愛人の娘役。公演は日本語で行われ、その背景に英語の同時字幕が出されました。この写真からも舞台全体の細かい演出が伝わるでしょうか。英語の字幕が出された薄いスクリーンの後ろに穣介さんが佇んでいて、各登場人物からの手紙を静かに聞いています。

 

その後、水がさーっとひき、石を敷き詰めた舞台になった時には中谷さんは真っ赤なワンピース姿に。こちらが妻役の中谷さん。母親の長年に及ぶ不倫を不意なことから知ってしまい戸惑いを隠せぬ愛人の娘役(1枚上の写真)と異なり、気丈な様子が写真からも伝わってきます。

(c) The Dance Enthusiast(Photo Credit: ©Stephanie Berger)

 

そして、最後の愛人役の時には、舞台の上で愛人が三杉穣介へ宛てた手紙を読み上げながら、白い着物を慣れた手つきで着ていった中谷さん。今度は儚げという言葉がぴったりの愛人役。

(c) The Dance Enthusiast (Photo Credit: © Pasha Antonov)

 

およそ100分の舞台のうち95分ほどの時間、ほぼ独演となった中谷さんの演技力はもちろん、あれだけの量のセリフをどうやって覚え、どのように発声されたのか、驚いた人も多かったことと思います。

後日、本公演に関するインタビューで、1ヶ月に及ぶ公演で代役のきかない状況の中で一瞬たりとも気が抜けんず、専門医とテキストメッセージでやりとりしながら毎日の体調に合わせて漢方薬を選んで飲んでいること、今回の契約にあたって体調管理のために酸素カプセルの提供を契約書に織り込むことを譲らなかったこと(これは日本人が今後海外で公演するときにも契約で妥協しない方が良いと思って最後まで折れなかったそうです)を中谷さんがお話されている姿を見て、この公演への並々ならぬ意気込みと高いプロ意識を感じました。

2011年にも中谷さんが3役を演じる形でカナダと日本で行われたこの公演。NYでは初めてのこととなり、多くの日本人、そして現地の演劇ファンが会場に駆けつけています。

この週末は先日の公演を受けて、井上靖さんの原作を読んで過ごしました。折り返し地点を迎えた中谷さんのニューヨークでの熱演。原作は1949年に書かれていて、手紙の形式をとっていることもあり、日本語の美しさを再認識する機会ともなりました。ニューヨークにいる多くの方に見ていただきたい作品です。

 

・公演は4月15日まで。チケットは下記から。
https://www.thehuntinggun.org/

会場は、ファッション街として古くから知られるエリア。会場近くにはそんな様子が伺えるオブジェも。


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