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キャリアアップしたい場合、アメリカのMBAに行く必要があるのか?を考察

今日は少し真面目なお話です。かねてからいつか記事にしてみたいと思っていたこのテーマ、「キャリアアップしたい場合、アメリカのMBAに行く必要が’あるのかどうか?」というテーマを私なりに考察したいと思います。

マンハッタンにはアイビーリーグの一つであるコロンビア大学、そして有名な私立大学であるニューヨーク大学がある他、金融系など大企業が多いので、NY外の有名大学でMBAを取得したという方々に会う機会も今まで多々ありました。また、私自身、だいぶ前のことになりますが、仕事に追われる日々に疲れて新たなチャレンジをしてみたくなり、働きながら通えるパートタイムの特別MBAプログラムのことを調べていた時期があります。そんな経験を踏まえて、今回、このテーマをさまざまな角度から考察してみたいと思います。

日本でアメリカのMBAを卒業と言うと、履歴書に箔がつくことは間違いありません。官庁や大手企業はグローバルな視野のある人材を育てることを目的として優秀な社員を選抜してアメリカのMBAへと送り込んでいます。

コロンビア大学の正門。日本の大学とは比べものにならないほどの広大なキャンパスです。こちらはメインキャンパスへの入り口ですが、ここを拠点としてロースクール、医学部などなど、さらには、学生用のアパートまで、この一帯はほとんどコロンビア大学の土地となっています。校舎内には入れませんが、キャンパス内であれば誰でも入ることができて、アメリカの学校の雰囲気を味わうことができますので、NYに来る機会があればぜひ立ち寄ってみたい場所の一つです。

 

しかし、キャリアアップしたい場合、本当にアメリカのMBAを取得するのは賢い選択でしょうか。

私自身、それに対する答えは「No」です。その理由はいくつかありますが、アメリカの労働市場と社会構造への理解が深まると、その答えは自ずと出てくると思います。

✔︎ MBAは通常の大学院と比べて専門性が低い
MBAはビジネススクールを卒業すると得られる学位を指しますが、ビジネススクールで学ぶことは、経営全般に関する一般的なものとなります。経営学や組織論、会計学、さらには、実際の企業をケーススタディーとして検証するという授業が中心です。要はビジネス全般のことを学ぶのです。特定の学問を深めるわけではないため、学べることは、さまざまな学問のエッセンスとなり、MBAを取得しても、特別な専門性を身につけることはできません。

一方で、アメリカの会社は日本と異なり、ジョブ型採用。つまり、特定の分野で専門的な能力や経験がある人を企業は求めているのです。例えば、金融アナリスト、人事のスペシャリスト、SEOに優れた人、グラフィックデザイナー、プログラマーといった感じです。そのため、何でも屋のような人はどれも中途半端とみなされてしまって会社が求めている人材とマッチしにくくなってしまいます。

こうした点を考えると、MBAという学位は、専門性をアピールするという点では、少し弱くなってしまうのです。

急速に発展しているロングアイランドシティーはマンハッタンからイーストリバーをわたってすぐの一帯。高層ビルから見えるマンハッタンの摩天楼は絶景です。右に写るのは、マンハッタンとロングアイランドシティーがあるクイーンズをつなぐクイーンズボロ橋です。

 

✔︎ MBAを卒業しても英語はできるようになるとは限らないし、国際的な人材となれるかどうかも保証されていない
それでもMBAを求める人がいるのはどうしてでしょうか。それは、MBA取得=英語ができる国際的な人材、と誤解されているからではないでしょうか。

しかし、MBAのたった2年間のアメリカ滞在で英語がペラペラになることは不可能です。また、行き先によってはクラスメイトに日本人が複数人いて、学校の課題で出されるグループワークも日本人で固まって作業することもある、と以前、NYで知り合ったMBA留学をしていた日本人に聞いたことがあります。確かに慣れない海外暮らしの中で、日本人と集うのは心の安らぎになるでしょう。また、日本人とは全く違う価値観を持ったクラスメートとグループワークを仕上げるのは大変なので、日本人だけでやってしまった方が気楽ということもあるでしょう。ただ、そのような状況では、国際感覚は全く身に付かないことも確かです。

そのため、MBAを取得しても英語ができる国際人材となる可能性はかなり低いのです。

✔︎ アメリカ社会はコネクション重視。MBAはネットワーク作りの場
アメリカ人がMBAに行く場合は、将来起業家となりたいと思った時のネットワーク作りのため、という意味合いが強いように思います。ハーバードやコロンビア大学のMBAを取得してウォール街の大手企業でバリバリ働いてたくさん稼ぐというシナリオもかつてはありましたが、最近では状況が変わり、ハーバード大のMBAを出た後に起業という道を選ぶ人も一定数いる、という記事を読んだことがあります。

MBAの学費は目が飛び出るほど高いので、会社からスポンサーしてもらった人以外は、大金持ちの子息であったり、母国で事業に成功したような方であったりするケースが多いです。そのため、有名大学のMBAに行くと、通常ではなかなか作れないコネクションを作ることができるのです。卒業した後に起業したい場合、そうしたコネクションは大きな財産となるでしょう。実際、私の友人はスタンフォード大学のExecutive(企業幹部)を対象としたMBAコースを出た数年後に起業した時に、スタンフォード大学の卒業生数人が投資家となってくれたと話していました。同期だけでなく、OBやOGとのネットワークができるのもMBAの大きな魅力です。

✔︎ 学費が高すぎる
アメリカのMBAは総じて学費が高いです。そもそも普通の大学の学費も高くて、一般家庭の子供でも親が全額学費を払えず残りは学生ローンを組み、卒業後かなり長期にわたって働きながら返済、というのも一般的なアメリカ。MBAはたとえ1−2年とは言え、その学費負担は大きいですし、通常のプログラムであれば仕事との両立は不可能であるため、その間は無職となります。上記3つの理由により、そこまでして私費でMBAを卒業する価値はないのではないかと私は思っています。MBA取得、と肩書きに箔がつくかもしれませんが、そのための代償は大きすぎるように思います。

また、日本の官庁や企業からのMBA派遣ですが、MBA留学という短い期間で職場に大きな価値を生み出すような国際的な人材となることも考えづらいことを考えると、果たしてMBA派遣の意義はどこまであるのだろうか、と考えてしまいます。

夜のコロンバスサークル。後ろにそびえ立つのはタイムワーナービル。ホールフーズマーケットやアパレルを中心とした店舗、ミシュランの三つ星常連のレストランも入居しているハイエンドな建物です。マンハッタンの象徴とも言える建物の一つ。

 

専門性を磨きたいのであれば、その分野での大学院へ行くことが一番ではないかと思います。アメリカでは生涯を通じて学びたい人を受け入れる土壌があり、仕事をしながら、自身のキャリアアップのために大学院で学ぶということは一般的です。人事のスペシャリストになりたいとNYの大学院の人事コースへ私費留学した日本人女性は、自分は英語の壁があるので仕事をやめてフルタイムで学生をしていたけれど、クラスメイトは皆仕事の後に授業へ来ていたので授業も夕方からの駒しかなかったと話していました。

日本では英語への壁を感じている人が多いため、海外でMBAとなると羨望の眼差し、となることもあるかもしれません。ただ、日本の一歩外へ出てみると、2ヶ国語以上話す人は山ほどいるのが現実です。海外でのMBAについても、イメージが先行しているような気がしてなりませんが、長いキャリアを考えたときに、本当に時間とお金の投資に見合ったものであるのかをさまざまな角度から熟考しても良いのかなと思います。


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