NYでビジネスを考える NYで食べる

意外と知られていないレストランデリバリーのからくり

早くも3月に入りました。最近少しずつ日も長くなってきてもうすぐサマータイムも始まります。
長い冬で知られるニューヨークでは、皆が春を待ち望んでいます。

パンデミックによりさらに激化している飲食のデリバリービジネス。今日はアメリカに住んでいる人も意外と知らないレストランのデリバリービジネスの裏側について書いてみたいと思います。

スタートアップの会社を応援する土壌があるアメリカでは、消費者にとってあったら良いと思われるサービスはすぐに誰かがベンチャー企業を立ち上げて取り組んでいますが、レストランのデリバリービジネスもその一つ。10年ほど前にニューヨークのレストランデリバリー市場を占拠していたのは、Seamlessと呼ばれる企業でした。多くのレストランを提携していて、Seamlessの検索画面で自分の住所と食べたいジャンルの料理を入れると、条件に一致したレストランの一覧が表示され、好きなレストランから食べ物をオーダーできるというのは、当時は画期的なシステムでした。

適当に住所を入れてアジア料理を選んでみました。お店の一覧が評価の星や配達時間、デリバリー代とともに見られて便利です。

 

私が以前勤務していたタイムズスクエアのど真ん中にあるオフィスビルでは、夜ご飯の時間になると、ビルの一階にずらっとデリバリーの人たちが並んでいる光景も珍しくありませんでした。現在マンハッタンでは、フードデリバリーはGrubhub、DoorDash、UberEatsの3強となっています(前述のSeamlessはGrubhubに買収されました)が、それ以外にもアジア料理に特化した中華系のデリバリー会社や高級レストランを多く扱うCaviarなど、さまざまな会社がこの市場に参入しています。

多くのレストランは販路拡大のために主要デリバリーサイトにはほぼ登録しているため、消費者の中には、それぞれのサイトで同じレストランから同じものをオーダーした時の値段を比較して、少しでも安いところからオーダーしたりする人もいるようです。デリバリーサイトによって、手数料や配達料が異なるため、どのサイトから頼むかによって値段が少し変わってきたりするのです。

こちらはGrubhubというデリバリー会社を通じてあるインド料理屋さんからインド料理をオーダーした場合のレシートです。

 

一目瞭然ですが、食事代金以外のチャージがたくさんかかってきます。食事代だけでは$24.5ですが、税金やチップ、その他フィーを入れると$33.31に。アメリカでは、デリバリーオーダーにチップは必須。チップ代は自由に設定できますが、食事代合計の15-20%は払うのが常識的です。上記では私は使用しているクレジットカードの特典でデリバリーフィー$2.99が免除されていますが、通常はそれもかかってきますので、デリバリーでは最終的には食事代金の1.5倍ぐらいの値段となってしまいます。

そんなことから、デリバリーを控えたり、レストランまで直接取りに行ったりする人もいますが、デリバリー事情はレストランサイドから見ると、また別の姿が浮かび上がってきます。

材料費と人件費、家賃の高騰で黒字営業を維持することが大変なレストランビジネス。デリバリーで結構儲かっていると思われがちですが、こうしたデリバリーサイトによる収益率は決して高くありません。それどころかあわや収支トントンのような状態にもなりかねません。

先ほどのオーダーをレストランサイドから見てみましょう。
レストランの手元に入ってくるのはたったの$19.6です。食事代金合計の$24.5から、デリバリーサイトへ支払う20%の手数料が引かれた金額です。

一方でデリバリーサイトの元にはこの手数料全額とサービスチャージ合わせて$5.9がわたり、チップの$5.99は全額実際の配達員の手元に。

こうして見てみると、レストランの収入は決して多くありません。それは、デリバリーサイトから徴収される高い手数料によるもの。消費者とレストランを繋いでいるだけのデリバリーサイトが高額の手数料を取っていることが、パンデミックの間に社会問題となりました。そのため、現在もNY市ではパンデミック時代の規制が適用されていて、デリバリーサイトがレストランから徴収できる手数料は、食事代金合計の2割が上限となっています。

デリバリーサイトを通じたレストランの売上の利益率は、デリバリーサイトへの2割もの手数料の支払いのため、店内飲食売上の利益率よりもはるかに低いのです。現在では多くのレストランが、店内飲食よりもオンラインオーダーの値段を高く設定しているのは、少しでもその利益率の差を解消しようとしているからです。レストラン経営者としては、デリバリーでオーダーしてもらうよりも、お店に直接来て飲食をしてほしいというのが本音です。

ハドソンヤーズの101階から眺めた摩天楼。右手奥のすらっと高いビルがマンハッタンの象徴とも言えるエンパイアステートビル。左手のビル群はタイムズスクエアのあたりです。こうして眺めると高層ビルばかりですが、マンハッタンには、ファミリービジネスから大手チェーン店までさまざまなレストランが群雄割拠の状態です。

West Villageの人気イタリアンSong' E NapuleをGoogleマップで検索してみると、こんなにも多くのデリバリーオプションが出てきます。同じものをオーダーするとしても、消費者としてはどこからオーダーして良いのか分からなくなってしまいますが、私はこうした時にはできるだけレストランのサイトから直接オーダーするようにしています。

 

デリバリーサイトを通さずにレストランが直接注文を受けて独自にデリバリーを行えばこうした事情は解消されるのですが、いつどれだけの分量のオーダーがあるか分からない状況の中でレストランが自前の配達員を抱えることは経済的に合理的ではありません。また、よほど名前の知れたレストラン以外は、お客さんが直接レストランのHPを訪問してオーダーすることもないでしょう。そのような事情から、レストランは高額の手数料が取られてしまうことを覚悟で、少しでも売上を増やそうとこうしたデリバリーサイトに登録しているのです。

最近では、レストランの中には、少しでもオンラインオーダーの売上から利益を上げようと、自前でオンラインオーダー用のHPを作り、配達会社と提携して配達を行うということをしています。そうすると、デリバリーサイトへの2割の手数料を回避できるからです。注文したいレストランが既に決まっている場合は、レストラン名を検索エンジンで検索すると、いくつものデリバリーの選択肢が出てきますが、「レストランが推奨している方法」が出てくることがあるので、その場合は、私はレストランをサポートするために、その方法でオーダーをするようにしています。

物価高のニューヨークでは、ちょっとした外食でも驚くような額になってしまうことが多いため、私を含めて外食を控えているという友人たちは多いですが、競争の激しいこの街でレストランが生き残っていくことは容易ではありません。お気に入りのレストランやカフェにはできる限り足を運んで微力ながら応援を続けていけたらいいな、と思っています。

友人が連れて行ってくれたチェルシーの老舗ステーキやさん、Old Homestead Steakhouseで食べた特大ハンバーガー。写真からは分かりづらいかも知れませんが、このハンバーグ、なんと直径12センチぐらいありました!アルメニアから幼少の時にNYへ移ってきたというサーバーの男性は明るくてお喋り大好き。友人との会話が弾んでいるうちに、なんと友人とこの方の地元が同じNYのスタッテン島のかなり近所だったことが判明!地元トークで盛り上がっていました。食事だけでなくお店の人と会話を楽しめるレストランはそんなに多くないだけに、この老舗ステーキハウスのホスピタリティを感じました。


+8

-NYでビジネスを考える, NYで食べる

© 2024 NYに恋して☆