すっかりご無沙汰してしまいましたが、みなさんお元気ですか。
NYも毎日蒸し暑く、夏模様です。
この夏、NY在住日本人の間で一番といっても過言ではないニュースは、平成中村座の7年ぶりのNYの公演でした。
平成中村座とは、故中村勘三郎さんが、歌舞伎をより多くの人たちに楽しんでほしいという願いのもとで、江戸歌舞伎発祥の姿を再現した江戸時代の芝居小屋をイメージした舞台で演じられる歌舞伎です2000年の初回公演以降、その活動は年々輪を広げ、今年は7年ぶり3度目のNYの公演となりました。この公演は、勘三郎さんがお亡くなりになって以降初めてのNYの公演でもあり、勘三郎さんの意思を継いだ弟子たちの演技に、公演前から話題が集中していました。
アメリカの芸術の中心、ニューヨーク。そして、芸術発信の一翼を担っているリンカーンセンターの大舞台で、その平成中村座は幕を開けました。
今回の演目は、故中村勘三郎さんが、次回のニューヨーク公演ではぜひこの作品を、と話していたといわれる「怪談乳房榎」。暑い夏にぴったりの怪談話です。(余談ですが、怪談話といえば夏、というのはアジア諸国の概念で、アメリカでは年間を通じて怪談話は読まれるようです。)
会場には、中村勘三郎さんの遺影も飾られていて、平成中村座の皆が、勘三郎さんの意思のもとに一体となっている様子が、あちこちに感じられました。
私は、日本にいた頃は、歌舞伎を自ら進んで鑑賞することは全くありませんでしたが、不思議と海外生活が長くなるにつれて、日本の文化や芸術への興味や関心が高まり、今回は話の予習も万全にして、会場へと向かいました。
江戸時代の芝居小屋をアレンジしたというその言葉通り、劇場内を赤提灯が取り囲み、舞台は日本さながら。中村勘三郎さんから直伝されたという早変わりの技を身につけ、たった2,3秒の間に衣装を変えるという早業で、一人で三役をこなした勘九郎さんの演技には、観客皆がただただ感嘆。そして、しなやかな身のこなしで、見事に女役を演じ上げた七之助さん、テレビで見た通りの装いだった獅童さん。公演中は、ニューヨークを意識して、英語でのアドリブも取り入れられ、終始舞台と観客が一体となった2時間で、千秋楽の土曜日は、満員の劇場がスタンディングオベーションで湧きました。
2004年の初公演のときには、アメリカ人の観客にあまり受け入れられなかったとも言われている日本の伝統芸能、歌舞伎ですが、今回は辛口のNY Times紙でも大絶賛されるほどにニューヨーカーを魅了しました。
笑いのツボ、美的感覚、言語、生活習慣等々、数え上げたらきりがないほど違う日本人とアメリカ人ですが、日本で脈々と受け継がれてきた歌舞伎が、時を経て、アメリカの芸術ファンたちにも受け入れられ、そして、そうした現場を目の当たりにできたのは、日本人として、とてもうれしいことだと思いました。